国際貿易は,国境を越えた財やサービスなどの経済取引です。この国際貿易の特殊な形式として関税減免や通関手続きの簡素化といった特恵措置を適用した辺境貿易という取引があります。今回は,中国の国境付近で行われている辺境貿易の形式とその特徴についてご紹介します。
前回のコラムで触れたように,中国辺境地域には北朝鮮,ロシア,モンゴルなど隣接国(14ヵ国)と同一の言語・文化・地縁・血縁をもつ少数民族が多数居住しており,こうした地理的・文化的「距離」の近さから自ずと隣接国との経済取引が活発になっています。しかし,政治的・経済的「通路」が欠如しているなど国境「障壁」があるため,辺境地域の経済発展は沿海地域などと比べて相対的に遅れています。こうした内在する障壁を克服するために,国境を接した2ヵ国間の取引が許可されており,これを中国では辺境貿易といいます。
中国海関総署(輸出入管理及び税関業務を司る機関)の辺境貿易に関する解釈によると,辺境貿易は大きく「辺民互市貿易」と「辺境少額貿易」の二つの形式で構成されています。「辺民互市貿易」とは,国境線から20㎞以内の地域住民が,国が定めた特定の貿易区,または指定の「集市」(市場)で,一定の金額内(1日1人当たり/8,000元以下の商品価値には関税免除などの特恵措置),または数量範囲内での商品取引のことを指します。一方,「辺境少額貿易」は,辺境貿易経営権を持つ辺境地域の企業が,国の指定した口岸[1]において,決められた品目に限定して行う商品取引のことを指します。
こうした辺境貿易は,辺境地域住民の生活の便宜をはかるために,限定された地理的範囲内の居住民による少額の生活必需品取引を目的としながらも,当該地域で企業による取引を許可していることが分かります。現在,中国政府は,辺境地域またはその後背地に国家級の辺境経済合作区(計17カ所,図1を参照)[2]を設置し辺境貿易の活性化を促しています。中国政府にとって,辺境地域は中国内陸地域の対外開放および地域発展を促進する拠点地域として重要性を増しています。つまり,近年,中国政府は中国経済の対外開放を促進するために,内陸地区の拠点地域の育成を推進しているとみることができます。
しかし,現実的には様々な課題を抱えています。辺境貿易は,2ヵ国間取引である以上,相手国との友好関係の構築や相互の協力が不可欠です。現在,国境線付近では,新たな口岸(例えば,吉林省の集安,安図等)の建築が進められていますが,中国側の整備が整っていても相手国側の協力がないと「通路」は開通されず「障壁」のままになってしまいます(前回のコラムを参照)。そのため,国境付近という文化的・地理的「距離」の近さを最大限に生かし,双方が繁栄する方策を模索することが大事であると言えます。
RIIT研究員 安田知絵
(参考文献)
1)中華人民共和国海関総署「海关总署解读边境贸易政策」(http://fangtan.customs.gov.cn/tabid/301/Default.aspx)閲覧日:2021年1月11日
2)于国政(2005)『中国辺境貿易地理』中国商務出版社
3)中華人民共和国商務部(http://www.mofcom.gov.cn/xglj/kaifaqu.shtml)閲覧日:2021年2月5日
[1] 口岸というのは対外貿易港,または両国の国境に設置された通過及び貿易地のことを指します。(漢語辞典の解釈)
[2] 辺境経済合作区とは,隣接諸国との辺境貿易や経済交流の促進を目的として陸続きの国境線付近に設置された経済協力区のことを指します。現在,中国の国境線付近には17ヵ所に設置しています。この他にも省・自治区レベルの辺境経済合作区を設置する動きが広西チワン自治区で見られています(中国新聞网2021.1.14(https://www.sohu.com/a/444539778_123753))。