みなさんは「辺境」という言葉を耳にしたことがありますでしょうか。実は,「辺境」には「中心から遠く離れた地域」という意味に加えて、日本ではあまり馴染みがありませんが「国境」という意味もあります。
一般的に国家間の境界となる「辺境(Border)」地域は、「中心」との格差が大きく、開発の必要性がそれほど高くない未開発地域として扱われることが多いです。Won(2015)によると、辺境は、以下の三つの意味をもっています。
① 中心から比較的に遠く離れた地域
② システムの境界線付近
③ 二つ以上のシステムの交叉する部分
通常の意味での辺境は、概して①と②を指し、発展から最も遅れた周辺として理解されます。しかし、③の意味での辺境として規定する場合、辺境は交流の通路として、異なるシステム間のヒト・モノ・情報が行われる重要な機能を有する空間となります。
今日、グローバル化と地域化の進展に伴って、一つの国・地域が発展するためには「自力更生」( 他国の援助に頼らず、自国の中で解決することを意味)は難しく国際的な連携が必要になってきています。そのため、陸続きで長い国境線をもつ中国の辺境地域への注目度も益々高まっています。
今回のコラムでは、中国の辺境地域の地理的範囲と特徴について整理してみましょう。中国は約2.2万キロメートルの国境線をもっており、国境を接している国の数は世界で最も多く14カ国に上ります。これらの国々は,東から北朝鮮、ロシア、モンゴル、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、ラオス、ベトナムです。また、中国側の陸続きの国境付近には遼寧省、吉林省、黒龍江省、内モンゴル自治区、甘粛省、新疆ウィグル自治区、雲南省、広西チワン族自治区がありますが、これらの辺境地域には隣接国と同一の言語・文化・地縁・血縁をもつ少数民族が多数居住しているのが大きな特徴です。
このように文化的・地理的「距離」の近さから辺境地域と隣接国の間では交流が活発であっても不思議ではありませんが、国境付近には政治的・経済的「距離」が存在しており、交流を活発化させる「通路」が欠如しています。国境を越える交流を高めるためには、交通インフラ整備に加えて政治的に良好な関係を作り、国境付近での開放をお互いに進めていく必要があります。
しかしながら、2014年に完工した新鴨緑江大橋(写真1を参照)が良い例であるように、中国国内の交通インフラが進められていても相手国側の整備不足により未接続問題が生じています。この橋は、中国側の出資により中朝貿易の中核を担う橋梁として建設されましたが、北朝鮮側の接続道路建設や税関設置などの遅れにより2019年現在でも分断状態にあります。 辺境地域は地政学的に複雑ではありますが、当該地域の共同繁栄のためには相互の信頼関係の構築をはじめとする国際的な枠組みのなかでの協力が不可欠であると言えます
RIIT研究員 安田知絵
参考文献
원동욱(2015),“변경의 정치경제학:중국 동북지역 개발과 환동해권 국제협력 구상” 아태연구 제22권제2호,pp.27-60.
〈Won,Dong-wook(2015),「辺境の政治経済学:中国東北地域開発と環東海(環日本海)圏国際協力構想」,亜太研究,第22巻第2号,pp.27-60〉