RIITリポート No.6
研究員 羽田翔
2019年末から生じたCOVID-19のパンデミックによって、世界中で国内外のヒトやモノの動きに対する制限が課されました。例えば、COVID-19対策に重要であった医療関連品や外国からの感染回避と国内の食料確保を目的として食料品の輸出・輸入が制限されました。2020年1月から2022年6月の期間で、当該財の輸入に関する新規の制限措置が321件、輸出に関する新規の制限措置等が545件増加しました。2024年時点での問題は、COVID-19パンデミックが収束した後も、多くの制限が残されたままとなっていることです。
この図1は、2020年1月から2022年6月の期間を対象として、輸出・輸入に関する貿易制限措置を課してから何ヶ月で当該措置が撤廃されたかを示しています。例えば、赤い丸は貿易制限措置を課してから5ヶ月経過後に0.75(75%)の貿易制限措置が課されたままになっていたことを示していますが。つまり、5ヶ月以内に全体の25%の貿易制限措置しか撤廃されていなかったことを意味します。
それでは、その後はどうなっているでしょうか。青い丸の数値は0.5よりも上にあります。つまり、貿易制限措置を課してから30ヶ月経過してもなお半分以上の貿易制限措置は課されたままとなっていることを意味しています。
コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻などによるグローバルな危機時には,経済的な不確実性の問題が顕著となるため,各国は自国経済と国際経済のどちらを優先するかというトレードオフに迫られることがあります。このような危機時に,国際社会は自国経済を優先する貿易制限措置を導入する国々に対して,どのような対策を採るべきでしょうか。
コロナ禍において,WTOはCOVID-19の蔓延から世界を救うためには自由貿易が重要であることを主張し続けてきました。また,世界保健機関(World Health Organization: WHO)などの国際機関は,各国の保健衛生や医療体制,さらにはヒトの移動の制限を強く求めることで,パンデミックへの対応を模索し続けています。このように国際機関は,当初は専門とする領域を中心に各国への呼びかけなどを行っていました。しかし,COVID-19用ワクチンが開発されたことで,国際機関の対応は大きく変化しました。なぜなら,COVID-19用ワクチンの国際的な供給には,供給の順序,知的財産権の問題,世界全体での協調行動など,多くの問題を抱えていたからです。このことから,国際機関間の主体的な対応が注目されるようなりました.現在では、国際機関と各国との関係では限界あったため,国際機関同士での協働により各国の対応がモニタリングされることとなっています。
危機時には命と経済について多くの議論がされますが,その間にも命と経済の問題は深刻化しています。そのため,平時に危機時の対応を議論し,モニタリング体制や危機時の協調行動を制度化することが重要となります。