Location, Shinjuku, Tokyo, JAPAN

コラム−異なる国内規格 ≒ 非関税障壁

グローバル化を活用し人びとの幸福な将来を築く

「デカケルトキハ、ワスレズニ」

かなり以前になりますが,ジャック・ニクラウスが日本を旅してクレジットカードで代金を支払い,このキメ台詞を言う某カード会社のTVCMが流行りました。おそらくこのCMは,このカードさえあれば世界中で決済できる,という利便性をアピールしていたのだろうと思います。確かに,世界各国では通貨が異なりますので,海外旅行の際には現金を両替しないで済むクレジットカードは便利です。

ところで,海外旅行といえば,みなさんは渡航先の電源プラグの形状(カテゴリーEとかFとか)を調べて変換プラグを用意されるだろうと思います。日本の電源プラグはカテゴリーAで平行した平刃が2つです。これに見慣れているために,私は異なる形状のコンセントを見ると「あー,海外に来ているな」と実感します。

イギリスの電源プラグ(カテゴリーG)
日本で使用されているカテゴリーAに比べるととても大きいです。まさにヘビー級!

個人的には,これまで見た電源プラグの中で最もインパクトが強かった形状は,イギリスで使用されている長方形の突起が3つあるカテゴリーGです。電源プラグ自体の大きさもカテゴリーAの3倍ぐらいはあり,かつ重量もヘビー級です。さらに壁側のコンセントにはONとOFFのスイッチがあります。初めてイギリスでこのコンセントを使用したとき,接続した機器に通電せずに「うわ,故障か」と焦った記憶があります。使用する際は,電源プラグをコンセントに挿してから,横に付いているスイッチをONにしないといけません。

イギリスの壁側のコンセント
横のスイッチでON,OFFをコントロールできます。
イギリスの壁側のコンセント
横のスイッチでON,OFFをコントロールします。

また,コンセントの形状に加えて,各国では電圧(V:ボルト)も異なります。各国の電圧は,だいたい100Vから240Vです。そのため渡航先用の変換プラグ以外に重たい変圧器を海外に持っていた経験がある方もいらっしゃるのではないかと思います。

一方で,現在のノートPCのACアダプターは,100Vから240Vに対応しているため渡航先でも変圧器を使用する必要はありません。これはとてもありがたい機能です。しかし,その他の電子機器で幅広い電圧に対応していないものもありますから,みなさんどうぞご注意下さい。ちなみに私は20数年前のイギリス留学中にうっかり日本から持っていったプリンターを変換プラグには取り付けたものの,変圧器を使わずにコンセントに差し込んでしまい「ボンッ」と小さな爆発を起こして,プリンターを壊した経験があります。

余談になりますが,日本は世界でも珍しく地域によって電流のヘルツ(Hz)が異なっています。そのため,ヘルツフリーの技術が広く普及するまで,国内で長距離の引っ越しをしたら電子レンジや冷蔵庫などの家電製品が使えないという経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

さて,電源プラグに代表されるように各国には,同じ目的の製品でも国ごとに異なる仕様になっているものが数多くあります。各国は,国内市場で流通する製品の安全性を一定基準以上に保つため,または製品の仕様を統一し利用者の利便性を高めるために,製品規格を制定しています。日本ではJIS(日本産業規格)がこれに該当します。多くの国には日本のJISと同じように国内の規格が制定されています。アメリカではANSI,イギリスではBS,ドイツではDIN,中国ではGBなどがあります。さらにEU加盟国には,域内の製品規格としてENもあります。

既にお気付きのように,各国は自国市場向けの規格を制定しています。企業が外国市場に輸出を始める際に,電源コンセントのように各国の規格がそれぞれ異なっていたら,どうなるでしょうか。きっと,企業は自社製品をその国の規格に適合させるよう努力するでしょう。つまり,企業は新たな外国市場に輸出を始める度に,異なる規格に適合させるコストを支払うことになります。したがって,より多くの国に輸出すればするほど,この適合コストがより大きくなる恐れがあります。そのため,各国間の国内規格の相違は,関税のような国際貿易の障壁となり得ます。このような関税以外から生じる貿易障壁を非関税障壁と呼んでいます。

私たちの国際社会では,このような非関税障壁を削減するために,WTO(世界貿易機関)がTBT(貿易の技術的障害に関する協定)を設け,加盟国に規格・認証制度等における障害を削減するように求めています。例えば,ISOなどの国際規格が存在する場合は,国内規格から国際規格に切り替えて無用な貿易障壁の削減を促しています。

電源コンセントの歴史は,発明王エジソンの時代,19世紀末にまで遡ります。電球が世界中に普及するにつれて,各国は独自の電源コンセントを作りだして行きました。もし,その当時にWTOやISOがあり,電源コンセント・電圧の国際規格を作り出していたら,いま私たちは変換アダプターや変圧器を持たずに世界を旅することができていたでしょう(私のプリンターもイギリスで壊れることは無かったでしょう)。電気機器メーカーも各国の異なる規格に適合させるコストを支払わなくて済んだはずです。そうであれば,私たち消費者はもうすこし安い価格で電気製品を購入できていたかもしれません。

今後,各国が国際規格の採用を進めていけば,各国間の非関税障壁は段々と小さくなっていき,私たちはより一層,グローバル化のメリットを得られると期待されています。ひょっとすると,それほど遠くない将来に各国の電源プラグも統一されるかもしれません。そのような未来が訪れるまでは,どうぞみなさん

(海外に)デカケルトキハ(電源コンセントの変換プラグを)ワスレズニ。

RIIT所長 井尻直彦

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